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「野生生物の種の保存」

黒田 大三郎(環境省自然環境局野生生物課長)

 日本分類学会連合の設立,誠におめでとうございます.記念すべき設立の場にお招きいただきましたことを感謝いたしますとともに,大変嬉しく思っております.

 1992年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットにおいて,生物多様性条約への各国の署名が開始されてから今年でちょうど10年目を迎えます.また,国内では,環境省の担当する「絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律」の制定から10年目に当たります.このように,今年は国際的にも国内的にも生物多様性の保全という意味で大きな節目の年にあたり,その年頭に日本分類学会連合が設立されたことは,記念すべき出来事であると感じております.連合の発足は,私どもにとって非常に心強いパートナーの出現であり,皆様方と協力して生物多様性の保存を進め,そして連合が大きく発展していくことを期待しております.

 環境省は,環境庁として発足してから今年で31年目となります.環境省では自然環境保全基礎調査,いわゆる緑の国勢調査を今日まで何回かのクールで実施し,かなりの調査成果を蓄積してきました.この成果は世界の中でもトップクラスにあると言えますが,これは,様々な分野の数多くの先生方の献身的なご協力のお陰と感じております.

 今年は生物多様性にとって節目の年であることを申し上げましたが,環境省にとっても非常に話題豊富な年となります.環境省が今年取り組む事業について以下にご紹介させていただきます.

 (1) 現在,生物多様性条約に基づく生物多様性国家戦略の見直し作業を進めております.今年2月半ばには素案を提示し,皆様方にも環境省のホームページでご覧いただけることと思います.この国家戦略は条約に基づくもので,行政改革担当大臣以外の大臣全てが入る関係閣僚会議である地球環境関係閣僚会議で決定されます.いわば,生物多様性に関する政府の大方針が示されるということになります.

 (2) 自然公園法の改正,見直しが予定されています.風景の保護に加えて生態系の保護という機能を国立公園等に持たせるように制度を見直すことにしております.

 (3) 鳥獣保護法という非常に歴史のある法律がありますが,片仮名,文語体で書かれており馴染まれにくいため,平仮名,口語体化に取り組んでいきたいと考えております.

 (4) 平成10年に山梨県富士吉田市に生物多様性センターという組織,建物を作り,そこで生物多様性に関する情報の収集,整備,管理,提供を一元的に実施しようと取り組んでおります.保全政策に必要な分布状況の把握や,レッドデータブック作成に際し,野生生物のリストというのは非常に重要なものであり,財団法人自然環境研究センターにもご協力いただいてリスト作りを進めているところでございます.今後さらに充実させていくことが必要と考えております.また,センターには標本の収蔵庫があり,標本の収集も進めていきたいと考えており,分類学会連合と様々な形で連携して進めて行けることを期待しております.

 (5) 今年の8月に南アフリカで開催されるヨハネスブルグ・サミット(リオプラス10)では,地球温暖化防止が大きな議題となりますが,生物多様性保全も一つの主要なテーマとして据えられる予定です.そこで議論される予定のカルタヘナ議定書(遺伝子組替体の輸出入のルール,生態系・生物多様性へのリスクの評価,悪影響の防止)にどのように対応していくべきか,環境省をはじめとする関係省庁で取り組んでいく必要があります.

 様々な検討課題がありますが,皆様方とできるだけ交流を深め,御意見をお聞かせいただければと考えております.

 最後に,環境省の行っている事業で佐渡のトキに関する事業についてお話いたします.佐渡のトキの事業に関しては様々な意見が寄せられておりますが,私どもは,トキの事業は種の保存に関する象徴的な取り組みと位置づけています.この事業を通して,生物多様性の保全・種の保存ということに国民に関心をもってもらい,理解していただき,さらには何らかの形で参加していただくことが必要だと考えております.そのような取り組みの中で,分類学というベースになる学問の世界にも興味をもっていただけるのではないかと感じております.また,種の保存方法に関しましても検討している所でございます.現在レッドデータブックに登載されている2,700種のうち,法指定されているのはわずかに57種であり,個別の種の法指定には時間がかかりすぎることを考慮すると,登載されている種が比較的多く集まっている場所を「場として指定する」ということも必要であろうと考えています.

 連合発足を機会に,これから皆様方と様々な形で交流させていただき,御意見を頂戴したいと思っております.最後になりましたが,日本分類学会連合のこれからの益々のご発展と大きな成果をご期待申し上げます.