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「日本分類学会連合」設立の経緯
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〜「日本分類学会連合」設立の経緯〜 馬渡峻輔 平成13年度科研費基盤研究(C)(1)企画「生物多様性学会設立よる生物多様性共同基礎研究の実行」の研究代表者馬渡峻輔ならびに研究分担者9名から,動物分類学関連学会連合ならびに植物分類学関連学会連絡会に参加されている全学会への呼びかけがあり,2001年6月27日に動物,植物あわせて17の分類学関連学会の関係者20人が東京大学駒場キャンパスに集まった.これまでの「動物分類学関連学会連合」および「植物分類学関連学会連絡会」をさらに発展させ,「日本分類学会連合(仮称)」を結成できるかどうかの討議を行うためである. 会合では様々な討議がなされた.「日本分類学会連合」の必要性は,1) まとまった組織を持った学問が研究費,人材,職場,社会的地位等々において優位に立っていること,2) fundamental studyである分類学は,生物群別学会活動に甘んじていたのでは,advanced studyである生態学や系統学に成果を一方的に吸い取られるままである,等々の意見が出ておおむね理解された.「日本分類学会連合」は,1) 分類学という学問の存在を世間,学界,文部科学省にインパクトを持って知らしめ,2) 分類学の将来を話し合う場となり,3) 社会に対する窓口となる,等々の点において有用であるとの合意が得られた. 異論もいくつか出た.その一つは,植・動が合同するメリットは何か,との問いかけであった.これまでに植物側は9つの植物分類関係学会が植物分類学連絡会を構成し,合同名簿を作成し,会合を持っている.一方の動物側は12学会が参加した日本動物分類学関連学会連合が毎年ニュースレターを発行し,シンポジウムも開催している.すなわち,植物学と動物学は長い間別々の道を歩んできたという歴史的認識があるのに今更,というわけである.しかし,その認識は,科研費の細目が植・動の区別なく「系統・分類」となったことに象徴されるように変化しつつある.さらに,これまで「植研連」と「動研連」にわかれていた学術会議においても,既に植物動物研連合同連絡委員会が試行され,両研連によって生物学全体の問題を審議してゆく体制が模索されている.また,日本生物地理学会やプランクトン学会といった植・動両方の分類学者が入会している学会の存在も見逃せない.以上のような討議により,植・動が合同することに合意が得られた. 異論の二つ目は,「日本分類学会連合」に実利がなければ会費を払って参加する学会は少ないだろうというものであった.今のところ,早期実現するかどうかは別として,科研費細目「系統・分類」に「分類連合」から直接審査員を送る可能性が出てくることが実利といえばいえなくもない.さらに,昨今急に現実化している分類情報のデータベース化プロジェクトは,すべての生物を網羅したものでなければ利用価値は減ずるため,植・動の共同が是非とも必要であり,「日本分類学会連合」はその標準化を討議する場としても必須であるとの意見が出された.将来は,1) データベースの作成・維持管理および生物同定技術の教育,そして生物標本の同定を果たす公益法人「分類センター(仮称)」の設立,2) 分類学の教育・研究のメッカとしての全国共同利用大学院研究科「分類学」専攻の設立,3) 分類学分野での特定領域研究の採択,4) 科研費基盤研究(A)の獲得等々,「分類連合」として活動すれば実利の見込める事柄が目白押しであるとの意見に賛同が得られた. さらにこの会合では,連合の名称,参加資格,具体的な活動,分担金等についても申し合わせが行われ,設立に向けての具体的な作業をするために「日本分類学会連合(仮称)設立準備委員会(委員長加藤雅啓ほか8名)」を設置することも認められた.ちなみに,「日本分類学会連合」に関するお知らせや,議論の場として,メーリングリスト(room50)を立ち上げることもここで決められた. 以上述べてきたとおり,会合では,植物と動物の分類学者が連合を作ることに対しておおむね前向きな意見が出された.一昔前なら,このような植・動の連合など一考だにされなかったであろう.なぜなら,生物はあまりに多様なため,分類学者たちは,「甲殻類」とか「シダ」などといったそれぞれの専門とする生物群に限った研究・学会活動に満足して埋没してきたからである.しかし,最近になって,自分たちが「分類学」という大枠で世間から見られていることに気づき,分類学以外の生物 学分野がまとまった組織を持って活発に活動して社会に確固たる地歩を気づいている様子を目の当たりにし,分類学者たちは,分類学に対するコミットメントを形成する時期にきていることを痛感した.「自分たちの研究成果が歴史の1ページを構成するか,ゴミ箱行きかを決めるのはアカデミーをどれだけ組織できるかである」ことを肌で感じたのである.今こそ,分類学としてのまとまった組織を作る好機が到来したというわけである. 上記会合の結論を受けて,「設立準備委員会」はまず『「日本分類学会連合(仮称)」設立準備のおしらせ及び参加のお願い』を,『「日本分類学会連合(仮称)」設立準備の経過』とともに関連学会の会長宛に送付した.次に,設立のための事業に取り組むため,2001年10月18日に東大本郷キャンパスで第1回設立準備委員会を開いた.出席者は,加藤雅啓,伊藤元己,井上健,鈴木甲殻類学会会長(大塚攻の代理),友国雅章,馬渡峻輔の6人であった.第1回設立準備委員会では,1) 設立総会とシンポジウムを2002年1月12(土),13(日)に国立科学博物館で開催することを確認し,2) 連合参加の返事を頂いた学会がまだ少なく,手違いにより『「日本分類学会連合(仮称)」設立準備のおしらせ及び参加のお願い』が送られていない学会があるかも知れないので,大至急確認することとした.設立総会の準備として,規約原案作成は友国,趣意書作成は加藤,案内作成は伊藤(発送は11月中旬)が担当することを決定し,役員候補は12月中旬までに選定することとした.「日本分類学会連合」の具体的な活動については,1) ニュースレターを作成し(担当北大高久),2) ホームペイジを立ち上げる(当面は植物学会のホームペイジにぶら下げる:担当千葉大朝川)ことを確認し,近い内に活動計画を作成し,動物分類学会連合の財産を引き継ぐことにも合意を得た.設立総会とシンポジウムに関しては,プログラムの概要,スケジュール,開催場所・日時(国立科学博物館分館にて2002年1月12,13日の週末)等を決定した. その後,「設立準備委員会」は当面の目標である設立総会と記念シンポジウムへ向けて鋭意準備を進めた.関係各学会に案内を送り,会員への周知を依頼するとともに,関係各方面にもアナウンスメントを行った.学会側の反応もよく,総会までに19学会が加盟を表明し,1学会が加盟予定となった.こうして,「日本分類学会連合」は2002年1月12日にめでたく設立された. (文責 馬渡峻輔)
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