新しい知見に期待する
日本植物学会会長 黒岩 常祥
日本分類学会連合の設立,おめでとうございます.多様な生物を扱う団体が共通の理念の下に集まり,その分野が強固になるのは必要なことであります.最近では分類学とくに分子分類学が盛んとなり,ネイチャー,サイエンス誌などを見てもこの分野の研究が毎号のように報告されています.我が国においても是非この機会に,分類や多様性起源に関わる共通の原理を見出すような発見が生まれることを期待しております.今や,個々の遺伝子を扱う時代は終わりつつあり,ゲノム,ポストゲノムの時代となってきました.生物の分類に関しても,ゲノム分類学が要求されております.生物を遺伝子のシステム,ゲノムとして理解し,全ゲノムを基盤にした比較ゲノム学からたくさんの新しい知見が得られるものと期待されます.
一方連合の設立には多様性の保護という視点も強いと思われます.こうなりますと,生態学や環境生物学,更に農学,医学,工学,社会科学の分野にまで拡張すると膨大なものとなりますが,これらとの連携も欠かせないでしょう.こうした分野との連携を視野に入れながら地球規模での研究が望まれておりましょう.しかし基本は,学会や連合はそれを構成するメンバーの数の多さではなく,それを構成するメンバーの研究の質が問題であり,現在は,それが厳しく問われ,評価される時代に入ってきました.その意味でも日本分類学会連合から新規な成果が生まれる事を期待しております.
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日本分類学会連合の発足を祝う
社団法人日本動物学会会長 星 元紀
生物多様性という語が広く人々の口にのぼるようになったのは,高々この十年余のことに過ぎないが,今やこの語を見聞きしない日はないほどの賑わいである.関連の国家プロジェクトすら動き出しており,生物多様性研究の基礎を支える分類学ならびに分類学者への期待も大きく膨らんでいる.日本動物学会は,全生物種の包括的な生物情報の記載とゲノムから個体にいたるまでの標本の保存と解析を目指すGaiaList 21計画を提案し,その具体化に向けて努力しているが,この計画における分類学者への期待は大きい.このようなさまざまな期待に応えようという意思の現れであると思うが,分類群ごとに細分化されていた分類学関連の諸学会が,1995年発足の植物分類学関連学会連絡会と2000年に立ち上がったばかりの日本動物分類学関連学会連合を繋ぎ,さらに大きく一歩踏み出して全生物群を網羅する日本分類学会連合を結成したことは,動物分類学者を比較的身近に見てきた者にとっては驚嘆に値する快事であり,まさに慶賀にたえない.
分類学は生物学の中で最も長い歴史を誇り,Bioinformaticsのいわば嚆矢あるいは原型とも呼ぶべき分野でもあるが,同時に,生物学諸分野の成果を常に取り入れて日々若返る宿命にあり,Synthesisを目指して完結することのない分野でもあろう.その長い歴史を誇る余りに古さに溺れてしまうことなく,新しい酒を醸しだそうとして立ち上がった分類学のプロ集団に,大いなる声援を送りたい.それぞれの分類学を大いに進めて生物学の基盤をより確かなものにするとともに,絶滅危惧種にも擬せられることのある分類学者を大きく育て,さらにはわが国の科学行政の歪みを端的にあらわしている博物館問題などにも,当事者として積極的に発言し行動することを期待してやまない.
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