自然再生基本方針(案)についての意見
環境省では自然再生基本方針(案)に対するパブリックコメントを広く募集しており,本連合にも同省自然環境局自然環境計画課からコメントの提出依頼を受けておりました.それを受けて役員で検討し,2月21日付けで下のような意見(同じものを添付)を提出しました.このコメントは,本連合のホームページにも掲載されます.なお,「自然再生基本方針(案)」は環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/)のパブリックコメント欄から入手できます.
庶務幹事 友国 雅章
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私ども日本分類学会連合は分類学に関連する25の学会が加盟する連合組織である.生物多様性の研究を目的とする分類学は,学術的にも社会貢献の見地からも,自然とりわけ生物自然と不可分に結びついており,本連合では日本産生物の種数調査(既知種数,未知種数),移入生物の問題への取り組みなどを精力的に進めているところである.また,加盟学会は絶滅のおそれのある野生生物の調査を行うなど,生物自然の現状診断に貢献している.
数千年にわたるわれわれ人間の営みによって,だんだんと規模を拡大させながら破壊されてきた自然を再生しようとする事業の実施,推進は社会的に見ても強く望まれており,本連合としても高く評価したい.1(1)に謳われているように,自然環境は人間にとって即時的ばかりでなく長期的にも有用である.これは自明のことのようであるが,日常生活に埋没したり,一面的な利用,営利のみを追求しがちな個人,団体,地域社会はいつも認識しておくべき事柄である.それに関連して,自然環境の変化(破壊)の要因を正確に把握しておくことが肝要である.1(1)で人工林の手入れ不足,耕作放棄地の拡大をその要因として列挙しているが,人工林や耕作地の確保こそ典型的な人的営みであり,手入れ不足,放棄による植生などの変遷はむしろ自然回帰の現象であると捉えることができる.それ故,海岸,干潟,湿原など本来の自然環境の減少と並列させることは不適当である.受け取り方による違いもあろうが,要因の説明として誤解を与えない表現が望まれる.
自然再生事業の対象(1(2)ア)で本事業が代償措置としての環境ではなく,自然環境そのものを取り戻そうとする点は自然環境の価値に照らし合わせてすばらしいことである.取り組みとして「保全」,「再生」,「創出」,「維持管理」をあげているが,全体として「保全」にそれほど重きが置かれていないようにみえるのは,本方針の趣旨から見てやむを得ないのかもしれない.しかし,参考資料の概要を見ても,本事業が本物の自然ではなく疑似自然にかなり傾いている感があるのは否めない.可能な限り人工色を排除して,「創出」よりも「再生」を,「再生」よりも「保全」を目指す本物の自然環境再生を指向すべきだと考える.そうしてこそ,再生できた自然を長く保全したいと後世の人々が思うであろう.ちなみに,保全すべき対象になっている地域(例,霧島屋久国立公園の屋久島)でさえも,シカなどによる食害で固有種を多く含む植物相が壊滅的な打撃を受けており,看過できない状態にあることはよく知られたことである.
自然が地域特有の特徴を有するため,地域主導で事業を行うと位置づけているのは合理的であり,ボトムアップ型で進めるのは実態に即した方法であろう.しかしながら,他方で,自然再生事業が必要な地域を具体的に示すなど,総合的な立場から国が積極的に関与すべきところも多いと考えられる.
自然環境学習や普及啓発(1(1)オ,カ,4(1),(2),5(3),(4))は,本事業ばかりでなく,地球環境の保全のために力強く推進されなければならない.それに向かって国,地方公共団体は積極的な役割を果たすべきであり,そのための拠点として国立および地域の博物館などをさらに充実させて,活用することが考えられる.
日本分類学会連合
会長 加藤 雅啓
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