日本分類学会連合 設立趣旨書
多様性,すなわち個々の個体や種は二つとして同じではないという生物の普遍的な属性に注目し研究するのがいうまでもなく分類学である.分類学は生物学の中でもっとも長い歴史をもった分野であるが,分子生物学のような研究手法の革新に遅れをとり,進展著しい他の分野の後塵を拝さざるをえない状況が続いた.しかし,生物多様性の重要性を再認識するようになった現代生物学は,生物多様性が21世紀の生物学の最重要課題の1つであると認めている.
一方,地球環境の悪化を肌で感じ,未来を危ぶみはじめた人類は,人類の生息環境の保全を模索しはじめた.その結果,人類の生息環境の保全とは地球上の生物多様性の保全に他ならないことを知り,その点でも,これからが生物多様性研究を中心とした生物学の時代であるとの共通認識を深めている.既知種ばかりでなく多くの未知種も科学的に認知されることなく絶滅に向かい,多様性研究の土台が著しく損なわれようとしている.人間社会にとっても,すでに有用なものだけでなく,潜在的な遺伝子資源として将来は活用できる多様な生物資源が人類の前から姿を消しつつある.生物多様性を保全してこそ初めて,我々が享受している地球環境を,次世代の人類にとっても好ましい環境として引き継ぐことができる.
1992年に生物多様性条約を批准した日本では生物多様性保全に関するさまざまな研究が始まっている.生態学分野では,生物多様性国際共同プロジェクトDIVERSITASが世界的に進行する中,その西太平洋アジア地域国際ネットワークDIWPAが実績を挙げつつある.情報学分野では,生物データベースプロジェクト「SPECIES2000」のワークショップを日本で開催したり,また,最近ではGBIFも立ち上がるなど,あちこちで生物データベースが走り出している.しかしこれで,人類の将来は安泰かと言うと,残念ながらそう簡単ではない.地球上の予測生息種数は約2億種,そのうち既知種は約175万種にすぎない.我々の知っている種が1%にも満たないのに,それを対象にした生物多様性保全やデータベースは余りにも部分的である.
生物多様性を科学的に解き明かし,一方でそれを守って人間環境の破壊を阻止するためにまず必要なのは,「どんな生物がどこにどれくらい」棲んでいるかを知ることである.そして,この根本的な問に答えることができる唯一の分野が分類学である.分類学者にこそ,生物多様性に関するすべての学問をリードする役割が課せられている.
これまで,日本の分類学者はそれぞれ自分の専門とする分類群別の学会の中で活動し,生物多様性に関する研究プロジェクトには個人単位で協力してきた.しかし,人間環境を取り巻くすべての多様な生物を明らかにする大きな目的にとって,それだけではいかにも単発的でか細い.分類群間の垣根を越え,大規模な生物多様性研究を可能にする分類学者の統合組織が研究サイドからも,社会からも強く望まれている.
このような状況で,分類学者は1995年に植物分類学関連学会連絡会を,2000年に日本動物分類学関連学会連合を立ち上げ,学会間の絆を強めた.これらの植物,動物ごとの学会連携は今回,全生物群を網羅する組織「日本分類学会連合」を設立することに発展した.本連合は全生物を対象にした生物多様性の研究および教育を強力に推進し,ひいては社会の要請に応えるよう活動を行なうものである.
平成14年1月12日
日本分類学会連合
連合代表 加藤 雅啓
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